Return to Touhou Rekkaden
――何かが変わることを、彼女は期待していたのかもしれない。 例えばそれは日常、例えばそれは自分自身、例えばそれは……温かな友情の中に。 ほんのわずか、少しでも変わることを期待して、それでも何も出来ずにいた。 踏み出した一歩で、何もかもが変わってしまうのが恐いから? けれど、その心の弱さ、枷が彼女の存在と立場を確定してしまった。 今ではもう、誰も彼女の名を呼ぶことはない。 彼女は時の止まった館の中でさえ、忘れられた存在なのだから。 東方烈華伝 ~rift in a friendshipgame~ 「また、手が止まってる」 そう告げた声は冷やかで、温かみがない。淀んだ空気と混じり合い、違和感を感じさせない。 それは『パチュリー・ノーレッジ』がここの支配者、大図書館の住人であることと多分に関係している。 日の差さぬ、魔法の灯りに照らされた本の墓所で、彼女達は片付け続ける。 「済みません、つい」 「謝らなくてもいいわ、仕事さえ出来れば」 「……ううっ」 手に持っていた本を懐に納め、再び手を動かし始める、赤い髪の彼女。 赤はこの館ではわりと高貴な色であった。館の名は紅魔館、主の名は『レミリア・スカーレット』。 だからなのかなんなのか彼女、『紅 美鈴(ホン・メイリン)』は紅魔館の門番を務めていた。 「パチュリー様、この本お借りしてよろしいでしょうか?」 「……? いいけど、片付けの方は?」 「はい、いわれた通り整理しておきました。では」 「そう」 やっぱり中国ね。そう思いながらパチュリーは中国の手にしていた本をもう一度思い出す。 およそらしからぬどぎつい装丁、原色の多用、みたこともない巨大な絵文字。 「……全く懲りないネズミ」 何か黒いものを想像し、パチュリーは複雑な息を吐きだした。 変わるということは、つまり何かを犠牲にするということなのだろう。 例えばそれは時間、例えばそれは今までの生き方、例えばそれは……人妖関係。 「こんな気の使い方があるなんて、知らなかった。修行、そうこれよ! 私に足りなかったのは」 今まで見たこともない不思議な本を胸に、門前でそう高らかに一つの誓いを立てる。 それがきっかけになり、彼女は迷い続けていた一歩を踏み出す。 「咲夜さんもお嬢様も不在。でも……むしろ今だからこそ行かないと。 ごめんなさい、きっと、強くなって帰って来ますから」 その瞬間、彼女の世界は音を立ててひび割れた。 終りから新しい始まりが始まる。 黒い感情、ずっと抱え続けていた暗い憎悪。 時すらも超越したソレは、ただうっすらと笑みを浮かべていた。
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