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Chapter 11.5

Main Part

神々の道具 Deity's Tool
「この道具は……外の人間はいったい何を考えて作ったのだろうか」 “This item... what were the outside world people thinking when they made it?”
 僕は少し寒気を覚えながら、その道具を店の奥の棚に仕舞った。 I was still feeling some chills when I put it away in a shelf deep inside the store.
 
 こう見えても僕、森近霖之助はれっきとした商売人である。いろんな道具が置かれたこの店『香霖堂』は道具屋であり、道具の殆どは商品である。売る為に外の道具を集め、客の為に店の扉は開かれているのだ。
 それなのに、あいつらは客でも無いのに店にやってきては、人を偽商売人扱いする。「どうせ売る気の無いものばかりだろう?」と言う。客では無い者には売る気が無いだけだ。
 確かに僅かではあるが店の奥には売る気が無い物、趣味の物といった非売品が存在する。これらの品は、店としては場所を取るだけで邪魔である。だが、ぼくにとっては商品より価値のある物ばかりなのだ。これらの価値に見合った対価を払おうとした者はまだ居ない。
 
 中でも最近酷く気になっている道具がある。余りの不気味さにより、誰にも相談できない様な品である。手に乗るくらいの大きさの灰色の小箱――材質はプラスチックと呼ばれる物だろうか? そういった、金属とも石ともつかない材質の道具である。最近はこの材質の道具は非常に多い。また、様々な形のボタンやスイッチの様な物も付いている。ただ、押しても何も起こらない。
 それだけでは何も不気味な所は無いのだが、この道具の『用途』が奇怪なのである。そう、僕の能力は『道具の用途を見極めることができる』事だ。だからその不気味さは僕にしか分からない。それはこの小箱を非売品にするだけの不気味さである。
 
――カランカラン
 
「外は寒いぜ、香霖よぉ。まだ森のほうがましだ」
「魔理沙か。店に入るなら雪は払ってからにしてくれよ」
「あー、払ってるよ。今」
 不気味な小箱を隠すように棚に置き、入り口の方に向かった。
「今払っても遅い。もう店内に居るじゃないか」
「客じゃ無いんだから、その位良いだろう?」
「二重で良くないよ。商品が濡れたらどうするつもりだい?」
「どうせ売る気の無い物ばかりだろう? 店ん中非売品ばかりじゃないか。全然手放すつもりなんか無さそうだし」
「非売品だって濡れたら困る。というか、さっさと外で雪を払ってきなさい」
 魔理沙は渋々外に出て行った。帽子の上に雪が積もっていたが、そんなに強く降っているのか……全く外に出ていなかったので雪が降っていることすら気が付かなかったのだ。
 それで良いんだ。過酷な冬は、人間の知恵の産物であるストーブの近くでじっと冬があけるまで待てばいいんだ。
「お待たせ。外は寒いけど、陽が出てきて綺麗だぜ」
「雪は止んだんだな?」
「ん? 雪なんて最初から降ってないぜ?」
「君の帽子に雪が積もっていたじゃないか」
「ああ、あれは森の木にやられたんだ。きっと巫山戯た(ふざけた)妖精の仕業かな? 人が木の下を通ろうとすると木を揺らせて雪を落とすんだよ。お陰で頭が重くてしょうがなかったぜ」
 何で雪を被ったその時に払わなかったのか気になったが、どうせ『首を鍛えていた』とか言うに違いないから訊かない事にした。
「何か最近面白い品が入荷したりしてないか?」
「そうそうこの間……」僕は言いかけて止めた。
 この間手に入れた道具、それはさっきの不気味な箱である。何が不気味かというと、あの道具の用途である。
 あの道具の用途、それはあらゆる物を操作できる道具らしい、例を挙げると人間を操ったり、戦わせたり、戦争を起こしたり、場合によっては世界を滅ぼすことも出来るらしい。それではまるで神が使う道具の様である。どう見てもそんな大層な物には見えなかったが、僕の眼はそう教えてくれたのだ。
 暫くその真偽を確かめていたのだが、使用法が解らず結局虫一匹動かすことが出来なかった。だから諦めて、非売品として店の奥の方に眠らせていたのだ。
「この間何だ?」
「この間……変な夢を見たんだよ。嫌な空気、耳障りな音、眩しすぎる光見たこともない景色だったけど、何故か見覚えのある……」あの小箱の事を話すのはまだ止めておこう。
「全然関係のない話だな。夢の話はどうでも良いぜ」
 
――カランカラン
 
「ああっもう。この店は。危ないわね。霖之助さん」
「危ないって何がだい? 霊夢。これ程慎ましい店も無いじゃないか」
 結局、昨日は魔理沙は暇つぶしに来ただけだった様だが、余りの暇に耐えられなかったのか、またどっかに行ってしまったのだ。まるで雪の上を駆け回る犬の様である。
 今日の来客――いや客ではないが、霊夢である。いつも客ではない者しか来ないのは、この店が慎ましすぎる所為なのかもしれない。
「慎ましいんじゃなくって、売る気の無い物ばっかり置いてある店でしょう? それはともかく、霖之助さん全然外に出てないじゃない。それで暖房ばっかり付けてるもんだから、屋根の雪が溶けて大きなつららでいっぱいよ? あんなのが落ちてきたらものすごく痛いわ」
「良いじゃないか。巫山戯た妖精が店に来るおかしな人間を追っ払ってくれるっかもしれないし」
「妖精がつららを落とすって言うの? 森の妖精じゃあるまいし」
「まぁいい、帰りにでも落としていってくれ。そのぐらいのツケはある筈だ」
「良いけどね。でも今日はそんなんじゃなくて、言付けを頼まれてきたのよ。」
「言付け?」
「『暫くしたら例の物、取りに行くから』って。例の物って何よ?」
「……例の物って何だ? そもそも誰の言付けだい?」
「勿論、紫の言付けよ」
 僕は紫が言っている姿を想像して露骨に嫌な顔をした。お世話になっておいてこう言うのも何だが、あの妖怪少女の笑顔は物凄く不吉である。
「まだ冬眠していなかったのか」
「冬眠しているから言付けなのよ」
 そうか、あの妖怪少女ならきっとあの小箱の事も何か分かるだろう。だが……一番渡したくない相手でもある。今まで勝手に持っていかれた道具も戻ってきていないし、それになにやら嫌な悪寒がする。
「例の物ってまさかねえ」
「とにかく、言付けといたからね。今日はちょっと買出しに行かないといけないから」
 
 霊夢はそう言うと急ぎ足で出て行った。店に来ておいて「買出しがあるから」と出て行くのはどうかと思う。うちでは買う物が無いと言っている様に見える。いや、言っているのだろう。
 僕は、あの灰色の小箱をまた取り出した。紫が言っていたという例の物とは、やはりこの箱のことだろうか。この箱は偶然拾ったものだが、紫の物なのだろうか?
 幻想郷に落ちている外の道具は、結界の事故で落ちた道具、使う人が居なくなり幻想となった道具、それか所有者が突然と消えた道具等である。もしこの道具が神の道具だとすれば、外の世界には神が居なくなったという可能性が高い。
 この道具が本当にあらゆる物を操作できる道具だとすれば、今の危うい位置にある幻想郷なんてひとたまりも無いだろう。特にあの妖怪少女に渡してしまうと、何が起こるのか全く想像できない。
 
 そんな不思議な道具があるなんて、普通の人間だったら誰も本気にしないだろう。だが、僕には信じさせられるだけの根拠がある。
 今まで拾ってきた外の世界の道具は、幻想郷では信じられないような物も作り出されているのだ。本気で世界を滅ぼせるような道具もあるのかもしれない。僕は今の幻想郷に、外の大きな力を持ち込んで混乱させる事は、出来る限りしたくない。灰色の小箱は今はまだ全く動く気配が無いが、いつその神に等しい能力を発するのか分からないのだ。その能力が発動すれば、人を操り、争わせ、戦を起こし、世界を滅ぼしてしまうだろう。
 僕は、今の幻想郷が好きである。だからこの小箱は誰にも渡すわけにはいかない。
 この様な危険な道具は壊してしまおう。木槌でこの道具を壊してしまおう。
 僕はこの灰色の小さな箱に僅かな未練を持ちながら、思いっきり木槌を振り下ろした。
 
 ――次の日、僕は久々に外に出かける準備をしていた。外に出掛けなければいけない用事が出来てしまったのだ。
 昨日は確かに小さな箱めがけて木槌を振り下ろしたのだ。だと言うのに……不思議な手応えだった。まるでフカフカの布団を叩いたかの様だった。驚いて木槌の先を見たが……。
 それは余り思い出したくも無い光景だった。なんと壊そうと振り下ろした木槌と小箱の間に……白い手が挟まっていたのだ! そう、手だけの生き物が木槌を受け止めていた。僕は思いっきり叩いたつもりだったが、その手は(か細い女の子の手であるが)平然としている。手は木槌を払うと人差し指を立てて、僕の目の前で左右に振った。呆然としている僕をあざ笑うかのように、その手は小さな箱を掴んで、箱とともに消えていったのである。
 その時は、何が起きたのか分からず暫く呆然としたままだったのだが、冷静になって考えてみると何にも不思議なことは無い。そんなことが出来る奴は、僕の知り合いの中でも一人しかいない。そう。あの娘が持って行ったに違いないのだ。一番渡してはいけなさそうな奴に。
 僕はあの娘の居場所は分からないままだったが、取りあえず油揚げを用意した。
「――油揚げなんか作って……、また店の前で棒立ちするつもりか?」
「魔理沙か、いつの間に店の中に?」魔理沙は僕のすぐ後ろにいた。
「なんだか慌ててるみたいだったからな。黙って入ってきたぜ。深い意味は無い」
 そうだ、僕が動くより魔理沙に探してきてもらった方が何倍も効率が良い筈だ。
「魔理沙、お願いがあるんだが……」
「紫を探してこい、って事か? 別に良いけどな」
「!? 何で僕が紫を探してるって解ったんだい?」
「油揚げだ」
 魔理沙は快く引き受けて、来た早々だが外に出て行った。これで……この寒い中、僕は店の外に出なくてすむ。
 落ち着いて考えてみた、あの小箱は何だったのだろう? 僕の能力は恐ろしい用途を見せていたが、あれだけの小さな道具にそこまでの力はないように思える。ただ、壊そうとしたら紫が持って言ったと言う事は、ただのガラクタでは無さそうだが……。
 黒色の安っぽいボタン、背面や側面には用途不明の小さな穴も開いていた。何より特徴的な事は、幾つかのボタンのすぐ上に、開閉不能な小さな窓が付いていたことだ。あの窓をずっと見ていると吸い込まれそうなほど、無機質で不気味だった。
 だが、重さはさほど無く中身も大して詰まっていなかった様に思える。僕は危険と言うより、不気味さと、ほんの少しの寂しさを感じ取っていた。霊夢の様にもっと感受性の強い人間なら、何か感じ取れたのかもしれない。これを使用していた者が込めた、想いの様な物も見えたのかも知れない。
 ……何故手元に無くなってからの方が、あの道具の細部を明確に思い出せるのだろう。僕の眼は、能力の見せる幻像に曇らされているのだろうか。今度からは能力に頼らないで物を見る訓練もしなければいけないな……
 
 ……カランカラン
 扉を開ける音で気が付いた。僕は考え事をしつつ、少々寝ていたようだ。
「何だよ。私に人探しを頼んでおいて、自分は好い旅夢気分か?」
「ああ、魔理沙か……。もう帰ってきたのかい?」
「神社にいたよ。紫の奴。神社で暢気にお茶を飲んでいたよ。冬眠忘れてな」
「……それで、紫はどうしたんだい?」
「言付けを頼まれたぜ」
「また言付けか……。それで何だって?」
「ああ、『確かに今月分は頂きましたわ』だって」
 なんと、あれは代金代わりだったのか。それにしても今月分だって? 毎月取り立てに来るつもりなのか? 僕は面倒な妖怪と取引してしまったものである。
「それから次の様に言っていたぜ『この間、外の世界では携帯出来る物が流行っているって言ったでしょう? だからこういう道具もいっぱい落ちているの。これは携帯ゲーム機と言って、いつでもどこでも仮想の敵相手に、戦ったり滅ぼしたり出来るのよ……。ってあらやだ、この灰色のはかなり古い機種ね。色もモノクロだし……もうこんな古いの、外の世界でも持っている人なんて余りいないわよ。今はねぇ、この小窓が二つ付いているのが流行っているのよ』だってさ。一体何の話だ?」
「なるほどね。良い言付けだ」
 外の世界では、今どのような『携帯ゲーム機』が流行っているのだろう。紫の言う二つ窓が付いた小箱も、流行が終われば幻想郷に落ちてくるのかもしれない。
 静かに屋根のつららが落ちた。おかしな者が近づいてきたのを、巫山戯た妖精が悪戯しているのだろう。

Afterword

 お早う御座います。これを朝読む人は少なそうですが、ZUNです。
 実は前回も誘われたのですが、前回は東方永夜抄のマスター前に締め切りがあったため渋々断ったんですよ。そんなでしたが、もう一度チャンスがあって良かったです。
 何のチャンスかって? それはもう、東方香霖堂を別の所でも発表することに決まっているじゃないですか。そうすれば単行本になったときに、ただの寄せ集めじゃなくなりますし(笑) ステレオタイプの発表の仕方じゃあ、ちょっとねぇ(殆ど嘘ですので信じないよう)
 
 ステレオタイプと言えば、ゲームボーイってステレオだったんですよね。スピーカーはひとつしかないのに。その辺が素敵ですよね。スカートの裏をフリフリにする様なもんです。素敵。
 
 もう、初代ゲームボーイを動かしている人なんて殆ど居ないんだろうなぁ。ああ罪なるは互換性かな。
 DSが出ればアドバンスも起動しなくなるのかな?
 
 そうそう、小説の内容にふれますね。今回のお話は、現在連載中の東方香霖堂~Curiosities ofLotus Asia.の一話です。
 一部、そちらの方を読んでいないと解らない内容も含まれていますのでちょっとキャラと設定の紹介を。
 
  森近霖之助 …… その辺に落ちていた物を拾って売る眼鏡兄ちゃん
  香霖堂 …… その辺に落ちていた物を並べてある店風な建物
  博麗霊夢 …… 何も考えていない巫女さん
  霧雨魔理沙 …… 香霖堂を喰い物にする自由人
 
 ちなみに、今回の話は第七話「紫色を超える光」の次に当たります。そちらも是非。
 
  上海アリス幻樂団 ZUN
    ちなみに、決して任天堂に喧嘩を売っているわけではありませんよ。

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