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”東方”ゲームデザイン概論 |
Introduction to "Touhou" Game Design | ||
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2誌での外伝連載、更に今夏の『東方花映塚』発売を控え、八面六腑の活躍を見せる幻想神主・ZUN氏。 |
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世界観を根底に据えるというゲーム哲学 |
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Interviewer |
――今日はZUNさんのゲームに対する「哲学」を中心にお話を伺っていこうと考えています。まずは初めてゲームに触れた頃について訊かせていただけますか? |
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ZUN |
僕は実家が喫茶店で、幼稚園の頃にはすでにテーブル筐体が置いてあるという環境に育ちました。だからゲームへの興味は非常にあって、小学校に上がってファミコンが世に出回るとすぐに買ってもらいました。新しいソフトが手に入ったら友達と一緒に遊び尽くす。でも普段は外で虫取りとかもしているような、普通の田舎の子供でした。 |
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Interviewer |
――その頃に衝撃を受けたゲームは? |
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Z |
一番衝撃を受けたのは、『スーパーマリオブラザーズ』です。それ以前のゲームはスクロールはしないし、まだ黒い背景が多かったんですけど、『スーパーマリオ』は地下に行けば地下の世界があり、雲の上には雲の上の世界がある。いろんな場所に行けること自体が驚きで、その都度曲が変わるのも衝撃的でした。 |
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その次のインパクトは……『ストリートファイターⅡ』。このゲームには二度目の革命くらいの衝撃を受けました。ゲームをみんなで遊ぶということが観世に対戦によって実現していて、キャラクターも実に操作のしがいのある大きさで。1日1万円くらいつぎ込んだ結果、小遣いがみるみるなくなりましたけど(笑)。 |
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Interviewer |
――その両作品にインパクトを受けたのは、ゲーム性やシステムを重視している点にあるのでしょうか。 |
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Z |
あれらが革命的だったのは、システム云々以前に、ゲームの持っている雰囲気自体が言葉にしがたいところで違っていたんですよ。後から「システムがこう革命的だった」「キャラクターがこう魅力的だった」と、個別に指摘できますけど、当時はそんな理屈を考えながら遊んでいないし、それが理由で流行る訳でもない。システム自体はそれまでのゲームの延長線上にあったとしても、決定的に違う何か。あえて言葉にするとしたら「世界観」の違いだと――通常の意味合いからはやや離れた言い回しですけど――ここでは呼んでおきましょうか。 |
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というのも、僕が考えるゲームデザインは、そういった世界観を根底に据えて、ゲームをひとつの世界、作品としてデザインすることだからです。つまり全てのベースには世界観があって、その上にゲーム性やシステムが成り立っている、映像や音楽が流れ、設定があって、プレイしてる感触がある、と考えるわけです。だから、いわゆるゲーム性はゲームの中のほんの一部でしかないし、そこにこだわりすぎるとコンピューターゲームとしての意味がなくなってしまう恐れがあります。 |
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しばしば「ゲームの本質はゲーム性であり、ゲーム性と世界観は別物」という人たちがいますけれど、僕はゲーム性と世界観は相反するものではなく、ひとつになっているべきものだと考えます。『ゼビウス』や『インベーダー』を見れば一目瞭然で、あの頃から、ゲームはただの記号の集まりじゃなかったんです。たとえば世界初の『弾をはじくだけのゲーム』がありますけど、それはどう考えてもオリジナルの遊び方なのに、『テニス』という名前が付けられて、つまりそこに「テニス」という「世界」を持たせて初めて作品になった、僕はそう考えるんです。 |
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ただ、そういったことを理屈づけないと面白さを感じられないようではたぶん成功していません。逆に要素ごとに考えると面白いわけではない、にも関わらずどうしても遊んでしまうところが重要なんです。経験上、ゲーム性やシステムの部分は、きちんと調整すれば間違いなく面白くできますが、それでもパッとしないゲームは本質を見誤っているように思います。ゲームとして遊ばせることの前に、世界観を持った作品であることが大事だと僕は思ってるんです。 |
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Interviewer |
――今仰った「世界観」は、非常に広いニュアンスを含んでいると思いますが、いわゆる世界設定みたいなものとはどこが異なるのでしょうか。 |
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Z |
「世界観」の良さと「設定」の良さの違いだと考えてみてください。たとえばSFっぽい世界、レトロな世界が好ましいというのが設定の良さ。他方で、ある世界に合わせた音楽や背景、操作感があって、ハイスコアを入力するところまで含めて全てがまとまっているのが、ゲームにおける世界観の良さ。 |
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だから僕の考えでは、どんな世界設定が必要かといった設定のあり方は、世界観のデザインによって決まるんです。設定的な部分、とくにキャラクターをいわゆる世界観そのものと勘違いして、「そういうものはゲームに影響しない」と言う人の中に、「キャラクターが入ってるゲームが嫌い」という人がいます。でも、そういう主張自体、キャラクターがゲームに影響していることの何よりの証です。もし本当に無関係なら、どんな設定がなされていようが関係なく遊べるはずですから。つまり「嫌い」だと思わせる程度には影響を与えている訳です。裏返して言えば、世界観のデザインによってゲームは良くもできるし、悪くもなる、と僕は認識しています。 |
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『バトルガレッガ』(※1)には、ブラックハートというカリスマ性のあるボスキャラが出てきますが、あれはキャラクターの魅力がゲームとしてもデザインされている好例です。ブラックハートの出現前にちっこいブラックハートがいっぱい出てくる演出があったり、それを活かすようにステージが作られている。そういうことが重要なんです。 |
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Interviewer |
――ゲームの個別の要素の関係づけ、意味づけ=世界観と言う感じでしょうか。 |
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Z |
そういった世界観を作るのが常にうまいメーカーがケイブさんです。『プロギアの嵐』(※2)の面構成は、朝から始まって夕方になり、夜になり、クリアすると2周目でまた朝になる。単純な時間の流れによって「進んでいる」感じがするんです。同じことは『ぐわんげ』(※3)にも言えて、町の中から白、最後は地獄と、ステージごとに流れがあって、加えて夏から始まり秋、冬、そして春になる。面構成に意味があって、プレイヤーをゲーム世界にのめり込ませるような形に作ってあるんです。 |
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『ダライアス外伝』(※4)も、ゲーム性だけに着目するとどうかと言われがちですけど、あれだけ流行ったのは世界観がたまらなく良かったからだと思います。実は僕は『ダライアス外伝』に影響を受けて東方を作ったようなものなんですよ。 |
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Interviewer |
――具体的にどのあたりに影響を受けました? |
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Z |
『ダライアス外伝』は、ステージの三分の二くらいの長さがボス戦という、ボスの性格づけをして、盛り上げるためだけに道中があるようなゲーム構成が特徴的なんです。それまでのゲームだと「3面が面白い、4面が……」という会話になるところが、「ダライアス外伝」では、オクトパスだ、グレートシングだ、とボスの名前でゲームが語られる。つまりゲーム的な記号で交わされるようになったんです。この「記号のキャラクター化」という部分を、『東方』ではさらに進めてみました。ボス戦に偏ったゲーム構成にくわえて、キャラクターと弾幕攻撃を結びつけた「スペルカード」というシステムは、シューティングでいうところの第二段階、第三段階といったゲーム的な記号も廃した結果生まれたものなんです。 |
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Interviewer |
――そういった独特な「世界観」を根底に据えたゲームデザインと、基本的に一人で製作されてきたという『東方』の創作スタイルは不可分なものでしょうか。 |
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Z |
だと思います。多人数でゲームを作る場合でも僕が理想と考えるのは、ゲームデザインはごく少数の人間が行なって、作業は複数に振るとしても、その人たちは作業要員としてデザイナーに合わせるように作る体制。そうしないと作品がまとまらくて[typo]、はっちゃけた感じがしないんです。今度の最新作『東方花映塚』の開発では、助っ人を頼んでるんですけど、僕が指定した作業だけをやってもらい、ゲーム作りにほとんど参加してもらってません。ゲームにとってはそれがいいと思って。 『東方花映塚』では、「遊んでいる間も、遊び終わっても気持ちがいい感じ」をテーマに作っています。普通に考えれば「遊んで気持ちいい」というのは、プレイ中の爽快感なんですけど、それだけだと案外気持ちよくない。気持ちのいい音楽、気持ちのいい世界、設定やキャラクター、全体的な雰囲気すべてを気持ちのいい方向に持っていかないと気持ちよくないんです。そのことは、ゲームをプレイしている感じを部分的に突き詰めるだけだと見えなくなってしまうんですね。 |
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売ることにこだわらず自分の好きなゲームを同人で出し続ける姿勢 |
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Z |
今僕が言ってきたのは、売れなくてもいいけど、いいゲーム。売れるゲームとなると話は変わってきてしまう。 |
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Interviewer |
――同人では、売れるゲームを目指そうとは考えていませんか? |
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Z |
全く考えてないですね。同人は売れなくても迷惑かけないし、批判されようが何だろうが関係なく、自分が好きなゲームを出しています。またそういう理念を持ってる以上、説得力ある行動をしなきゃいけないと思ってますから、新作の広告も流さないし、自分のホームページで強く押し出すわけでもない。自分が出したゲームの評判も、一切見ないようにしてます。 |
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Interviewer |
――それはわざと遮断されてるのですか? |
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Z |
忙しくて見ていられないという事情はありますけど、わざと遮断してるところもあります。他の作品の影響を受けるのはありだと思うんですけど、自分の作品を遊んだ人の影響を受けちゃうと、まずいスパイラルに陥りかねません。もちろんこれが商業の場合だったら、評価を気にしないというのは問題だと思います。ファンサイトの評価や、手間を惜しまずアンケートハガキを出してくれた人の意見などは、積極的に取り入れていくべきでしょうね。 |
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Interviewer |
――でも同人の場合は、それをやらない方がいいと。 |
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Z |
同人自体がミニ商業化して、商業とやることが同じになってしまうと、先が見えてきてしまうんですよ。僕はユーザーが同人作家に要望を言い過ぎるのは、同人っぽくないと思ってます。商業とは性質の異なる同人というものに対して、要望や批判をし過ぎるとものを作る人のパワーが減ってきて、市場が委縮してしまう。ただ東方は、ここまで規模が広がった以上、商業ゲームと同じように遊ぶ人も多いので、仕方が無い面もあるかなと。だから作る側が意図的に無視するくらいでないと、と考えてやってますが、最近は東方を遊んでくれているユーザーに冷たすぎる気がしなくもないんですけど(笑)。 |
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Interviewer |
――ちなみに東方の開発にあたって、どのような機材を使用されていますか? |
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Z |
同人ゲームを作る人が一般的に使う機材とソフトしか使ってないですよ。パソコンは自作のDOS-V,開発環境はコンパイラ、「Visual Studio」、画像だって一般的な「Photoshop」、音楽も「Cubase SX」というソフトで、プロユースではないです。10年前は同人ゲームを作るのも大変でしたけど……どうして作れるようになったかというと、血の滲むような努力があったということです。努力を前面に出すのは好きじゃないからあまり見せないようにしてますけど(笑)。 |
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Interviewer |
――これからゲームを作りたい人に対してアドバイスをするとしたら? |
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Z |
ゲーム会社に入りたい人と、ゲームを作りたい人へのアドバイスは別だと思っています。まずゲーム会社に入りたいなら、入りたい人の数に対して採用される数は圧倒的に少ないので、飛び抜けた個性を磨いて目立つことが大切です。僕は作品提出で東方を出したんですけど、作品自体はかなりの努力が必要でしたから。 |
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それとゲーム会社に入りたい人は、大学に入らず専門学校に行く人が多いんですけど、そういう人は会社に入ると地味な作業の多さにギャップを感じて、辞めてしまう人がほとんどです。それはたぶん、ゲームを作りたいのではなく、ゲーム会社に入りたかったからなのかもしれません。ゲームを作りたい人へのアドバイスとしては、若いうちから専門的な勉強だけに絞り込まず、大学に行って普通の勉強もして下さいと言いたいですね。そうすることで臨機応変になれるし、人間としての深みも違ってくるはずなので。 |
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気持ちよさを追求する最新作『東方花映塚』 |
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Interviewer |
――『東方花映塚』のテーマは花ということで明るいですよね(笑)。どういった内容になっているのでしょうか? |
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Z |
自分が常々やりたかった、「気楽に遊べて気持ちのいいゲーム」という想いを込めたのが『東方花映塚』。重たい設定が嫌いな人にもとっつきがいいと思いますけど、その反面これまで東方を遊んでいた人全員が喜ぶゲームではないと考えてました。ところが体験版の反響が思いのほか良くて、実はちょっと戸惑ってます(笑)。 |
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Interviewer |
――音楽に関しても気持ちいいということですが。 |
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Z |
今までは音楽をステージに合わせなきゃいけないので結構制限があったんですけど、今回はステージの展開は関係無く、バックに流れていて気持ちいいことが前提なので、すごくキレのいい曲に仕上がってると思います。遊んでいるときに繰り返し流れて、脳内に訴えかける音楽を心がけました。メッセージを飛ばさずセリフを全部読むと、いいタイミングで音楽が始まるようにも調整してますので。 |
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Interviewer |
――ストーリーについてはどんな感じですか? |
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Z |
かなり緊張感があって面白い内容ではあると思うんですけど、やや長いので現在調整中です(笑)。今回はキャラクターごとにエンディングがあって、繰り返し遊んで色んなストーリーを知ると、繋がりが見えてくるというか。一回遊んだだけではよく理解できないし、キャラクターによってはどんなことが起きたのか分からないまま終わるんですけど、それもまた東方らしいかなと。 |
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Interviewer |
――対戦シューティングというのは意外でした。その意図は? |
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Z |
今年はゲームを作るつもりはなかったんですけど、よくよく考えてみたら東方10周年。せっかく東方を遊んでくれてる人も増えたことだし、東方好きが集まったらこれで遊んで盛り上がってもらえたら……というファンサービス的な意図があります。 それと今回、『ティンクルスタースプライツ』が出るのと合わせて作ってるっていうのもあるんです。もしかしたら、東方を遊んでいる人が『ティンクルスター』(※5)を遊んでくれるかもしれないし、またその逆もあるかもしれない。ゲーム自体は喧嘩するもんじゃないと思ってるんですよ。これが食べ物屋だったら、人の食べる量は決まっているので、独自性を出してどこかの店の客を奪わなければいけないけど、ゲームの場合客が減るわけじゃない。むしろいいものを出せば、ゲームに興味を持つ全体の人数が増えると考えていて、シューティングの中でシェアを奪い合うんじゃなくて、むしろリスペクトして相乗効果を上げられたら、シューティング全体のレベルをもう1シーン上に上げられるんじゃないか、という狙いがあるんです。 |
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Interviewer |
――最後になりますが、本書『東方文化帖』の位置づけについて訊かせてもらえますか? |
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Z |
この本のお話をいただいたとき、『東方文花帖』という書籍とゲームが相互に影響し合うような、すでに東方を知ってる人が更に深く楽しめるようなものを作りたいと考えたんですね。だからこの本には、『東方花映塚』のストーリーが面白くなるような情報を色々織り交ぜてあります。いま東方で遊んでいる人の数は決して多いわけじゃないけど、触れてる人はすごく深く触れていて、それはたぶん、新しい人を取り込むために頑張ってないけど、『東方文花帖』のように、一度触れてくれた人に向けて色々とやっているからだと思います。でも偶然本書に触れてしまった人は……驚かれるかもしれませんね(笑)。 |
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Bohemian Archive in Japanese Red/Introduction to "Touhou" Game Design
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